必須アミノ酸の働きとアルギニンの関係


必須アミノ酸の具体的な働きをみてみます。必須アミノ酸は以下の9つです。

 

 ①イソロイシン

 ②ロイシン

 ③バリン

 ④リジン

 ⑤メチオニン

 ⑥フェニルアラニン

 ⑦スレオニン

 ⑧トリプトファン

 ⑨ヒスチジン

 

 ①のイソロイシンは、子牛肉や鶏肉、さけ、牛乳、プロセスチーズなどに多く含まれており、体内では、成長促進、神経機能の補助、血管拡張、肝臓機能の向上などの作用があります。

 ②のロイシンは、一日の必要量が必須アミノ酸の中で最大ですが、いろいろな食品に含まれているので、足りなくなるということはあまりないようです。主な作用としては肝機能向上の他に、筋タンパク合成を促進する重要な役割を担っています。

 ③のバリンも多くの食品に含まれているので、やはり、不足することはあまりないようです。体内では、成長を促進し、血液中の窒素バランスを調節します。また、頭脳活動の活力や筋肉運動の調整、情緒の安定に必要な成分です。

 以上のイソロイシン、ロイシン、バリンは構造上、分岐鎖(脂肪族)アミノ酸に分類されており、この3種類の必須アミノ酸は互いに相反する作用を持っていて、どれか1種だけを極端に多く摂ると、他のアミノ酸のバランスを崩し、免疫機能の低下を起こします。

 ④のリジンは、人間の体の組織を修復したり、成長に関与している重要なアミノ酸です。血液もこのリジンで養われ、抗体を形成します。また、ホルモンを産出して受精率を高めたり、酵素をつくるといった機能も持っています。その他、ブドウ糖の代謝を促進したり、単純疱疹を予防、解消し、肝臓の機能も高めます。これが不足すると、疲れがたまったり、目が充血したり、めまい、はきけ、貧血などの症状が出たりします。また、肝機能が衰え、血中に悪玉コレステロールが増えやすくなります。一般に、中高年以上の男性は若い人に比べて、より多くのリジンが必要とされています。

 ⑤のメチオニンは、肝臓や腎臓の細胞の再生に必要なアミノ酸です。特に肝臓の解毒作用を活発にします。その他、ヒスタミンの血中濃度を下げる作用もあります。ヒスタミンとは体内にある化学物質で、怪我をしたり、薬に反応したりすると活性化し、血管を拡張させたり、かゆみや痛みを引き起こし、ひどい場合にはアレルギー症状となります。このメチオニンが不足すると、尿をつくる能力が衰えてむくみが生じ、コレステロールが沈着したり、動脈硬化、抜け毛などを引き起こします。

 ⑥のフェニルアラニンは、血圧を上昇させる他に、興奮性の神経伝達物質であるノルエピネフリンとドーパミンという物質に転換されて、精神を高揚させ、性的興味を高める働きがあります。

 ⑦のスレオニンは、体内に入ると、成長促進の他、肝臓に脂肪が蓄積して脂肪肝になるのを防ぐ作用があります。また、消化器官の機能が円滑になり、代謝を促進させます。このスレオニンが不足すると、食欲不振、貧血、成長阻害、体重減少などの症状が出ます。

 ⑧のトリプトファンは、神経伝達物質であるセロトニンの原料となり、鎮痛、催眠、精神安定などの働きをします。また、コレステロールや血圧をコントロールしたり、更年期障害の症状を改善し、性的能力を高めるという研究結果も報告されています。

 ⑨のヒスチジンは免疫系の機能や組織修復、成長に関与するアミノ酸です。特に、赤血球を形成するために必要不可欠であり、ヘモグロビンの合成にも重要な役割を果たします。また、ヒスチジンは、体内でヒスタミンに変換され、アレルギー反応を調節したり、神経伝達物質としても働きます。赤ちゃんや成長期の子供にとっては特に重要ですが、大人にとっても重要なアミノ酸です。

特に中高年の場合、アルギニンは必須アミノ酸ではありませんが、加齢により体内での合成が減少するため、外部から摂取することが重要だと考えられています。アルギニンは、私たちが30歳を過ぎると脳下垂体からの分泌が減少し、ほぼ停止してしまいます。そのため、中高年にとっては、アルギニンを食物などから積極的に摂取する必要があるということです。

 また、このアルギニンは精力増強面でも、とても重要な働きをしています。

男性の精子の頭の部分は主にアルギニンを含んでおり、精液にもアルギニンが重要な役割を果たしています。つまり、アルギニンが不足すると、精子の数や精液が減ってしまい、男性側の不妊症を招く要因にもなるのです。そればかりか、精子や精液が減れば、当然それを放出しようという欲求もなくなり、精力を減退させてしまう原因にもなります。序章において、現代人男性の精子の数が世界的に減少しているということを述べましたが、その一因にアルギニンの摂取不足も関係しているのかもしれません。このようにアルギニンは 精子数を増加させる働きがあり、セックスが強くなるアミノ酸としても有名なのです。

その他、アルギニンは脳下垂体を正常に機能させ、そこから分泌される成長ホルモンを合成する作用があります。この成長ホルモンは身体の脂肪の代謝を促し、筋肉を強化してくれます。しかし、先に述べたように30歳を境にアルギニンの分泌がなくなり、さらに、成長ホルモンが50歳ぐらいで分泌されなくなってしまいます。外部からアルギニンを摂り入れさえすれば、成長ホルモンの分泌も刺激され、精神的にも肉体的にも身体全体が活性化されていきます。精力や活力が改善され、若々しいエネルギーを取り戻すことも期待できるでしょう。このため、アルギニンは栄養ドリンク剤や栄養補助剤に含まれていることが多いようです。
ちなみに、成長ホルモンを合成するためには、アルギニンの他に、オルニチンやトリプトファン、グリシン、チロシンなどのアミノ酸も必要です。アルギニンを外部から摂り入れる時は、これらのアミノ酸も同時に摂取した方がより効果的だといえるでしょう。